トラブルとらぶる



約2時間でアンマンのクイーン・アリア空港に着陸。
日本人はヨルダンのヴィザはイミグレーションで取れるのでそのままイミグレーションへ。
並んでいると東洋人は私以外は一組のカップルだけ。
たしかあのカップルはドーハの空港で「地球の歩き方」を読んでいたので日本人である。
やっぱり少ないなぁ。

イミグレーションでパスポートを出して質問に答えると
「Welcome to Jordan!」と言ってくれた。
こんなこと言われたのは初めてなので、ちょっと嬉しくなった。

あとは両替。
1JD(ヨルダン・ディナール)=170円。
この170円というレートに振り回されることになるとは、この時は予想もしなかった。

とりあえずの目的地はムジャンマ・アブダビ(バスターミナル)。
ここだと長距離バスも出ているし、ホテルもあるし、ダウンタウンにも近いので「歩き方」で当たりをつけておいた。

タクシーを振り切ってエアポートバス乗り場へ。
ミニバスが1台停まっていて乗り込んだ。
満席になったので発車。
停留所の発車時刻と全然ちがうのだけど。
「歩き方」でエアポートバスは1.7JDと書いてあったので車掌に2JD渡すと、身振り手振りで1JD足らないと言われた。
英語は通じない。
3JD=510円か、ボラれているのかと思ったが、回りも同じ金額を渡している。
「もしかして違うバスに乗ったのか?」とも思ったがバス乗り場は1箇所だけであった。
それに乗るとき「ムジャンマ・アブダビ行きか?」と確認したし間違っていないはず。
想像していた以上に整備された道路を走ること約40分。
郊外のバスターミナルに着いてしまった。
「?」
運転手に確認すると旧バスターミナルからこちらに移動したとのこと。
だから名称は変わっていない。
どこにいるか全然見当つかない。
まいったなぁ〜、と思っていると、「タクシー!」と声がかかった。


やっぱり来たか。
英語訛っているし通じにくい。
「旧バスターミナルに行きたいのだけど。」
「ここから約3kmある。歩くのは不可能だ。」
どーせメーターなんて使わないだろうから「そこまで2JDで。」と交渉。
なんかゴチャゴチャいっているが、むりやりOKを取り付けた。
運転しながら、旧ターミナル付近のホテルは全部潰れたとか、グッドホテルがあるとか言い出す。
「やっぱり。」
この時、頭の片隅で「こうやってボラれるんだな。」と予感めいたものを感じていた。

10分ほどで目安のキング・アブドゥーラ・モスクが見えてきた、ここなら位置関係がわかる。
「ここで降りる。停めてくれ。」というと無視してスピード上げた。
私は後ろから運転席を蹴った。
「停めろと言ってるだろう。このボケ!」と怒鳴っても、それでも無視して走っていく。

「おまえの言っているホテルは無い。私がグッドホテルに連れていく。」
「なんだ、このオヤヂは?」
一瞬、アーミーナイフ突きつけて停めようかと思ったが、そうなると犯罪だ。

ともかくスピード出ているし、5分ほど走ったら寂れたホテルの前で停まった。
「いったいどこなんだよぉ。」
だから初めての土地で曖昧な形でタクシーに乗るのは嫌なんだ。
もう間違いなくボラれるパターンだと腹の中で笑っていた。
タクシーのオヤヂは「5JD」と言い出した。
どういう思考回路なんだ?「2JD」はなんだったんだ?

オヤヂはボクを残して2階のフロントへ言った。
えーかげん頭にきていたので、鍵は抜いてあるけどドアロックしていないのでちょっと車に細工をした。
このまま荷物持って消えるというのも選択としてあったが、自分の位置がわからないので動きようがない。

オヤヂが戻ってきて2階へあがった。
フロントやロビーなど広いけど古くてボロい。

とりあえず部屋を見せてもらったら、ゴミはそのまま、ベッドはクシャクシャ・・・、エアコンは音だけでかい、水シャワーしか出ない、タオルも石鹸も無い、ベランダに出られるけど鍵が壊れている。
幹線道路目の前・・・こりゃウルサイぞ。

呆れるのを通り越して笑ってしまった。
案内してくれた少年に「プロブレム。」と言って変えてもらったが、ベッドがメイクしてありゴミがないだけで後は同じ。
自虐的になってきて、これも良いかでOKとした。

フロントに戻ってOKと伝え、料金を聞くと25JD。
相場がわからないので高いか安いかの判断がつかないけど、まあボロい部屋だし、「20!」というと「24!」
もう一度「20!」「ラストプライス、22!」
ここらあたりかな。

すると後ろで控えていたタクシーオヤヂが「(タクシー代)8JD」と言ってきた。
3JD値切った分、彼のほうに行くシステムになっているんだ。
怒った私は拒否しようとしたが、フロントのオヤヂが「やめとけ払っとけ」と言った。
なんだよホテルとタクシーで30JDという枠決めしてあるのかよ。







ともかくチェックインのためパスポート渡したらフロントのオヤヂは記載事項を見て、
「おおっ、私の同じ年の生まれだ。」と驚いて「オマエはオレより若く見える。」と言った。
このオヤヂは、「この日本人はええ年して、なんで一人で来ているのだろう。」と思ったかもしれない。

そしてオーナーの部屋に案内された。

オーナーと3人の旅行者が話していた、私も挨拶するとアラブコーヒーを出してくれた。
えらく物腰が柔らかい。
自分が今何処にいるかさっぱりわからないのでオーナーにここの場所を教えてくれと頼むと、Macを操作してモニターを見せてくれた。
Google Earthだよ。

「ホテルがここ。ダウンタウンがここ。旧バスターミナルがここ。JETT社のバスターミナルがここ。」
思った以上にダウンタウンに近い場所だ。
「JETTまでは、どのくらい? 明日アカバへ行く予定だ。」
「約20分。2kmぐらいだ。アカバ行きは7時、9時、11時と2時間ごとに出ている。」
と必要な情報は入手できた。

ともかく荷物整理して、JETT社のオフィスに行くことにした。
明日はアカバ行く予定なのでバスの時間の確認とチケットを買いたかった。

ホテルを出るとオヤヂがタクシーのボンネット開けて調べていた。
ヒューズが外れていることに気づくまでどのくらいかかるかな。
気づくようにと、ヒューズボックスは開けたままにしておいたし。
しばらく苦労してなさい。

さてJETT社まで歩きながらいつものように写真を撮りながら歩いていた。
歩くと位置関係がわかる。
旧バスターミナルは青空マーケットになっていたし、たしかに「歩き方」に載っているホテルも無くなっていた。

20分ほど歩いて、この大きな橋を渡ったらJETT社のターミナルかなというところまで来た。
橋を渡っていると右手下300m離れているところに新しいビルがあり夕陽が反射して美しい。
屋上にはヨルダン国旗がひるがえっている。
ちょっと良いなと思い、D80で写真を何枚か撮った。

そのまま橋を渡っていたら笛が鳴っている。
今撮った建物からだ、鳴っている方向を見ると守衛所の人間が私を指差して笛を吹いている。

軍服。
ヤバイ。
軍の施設だ。
別の二人が車に乗って、大周りしてこちらへ向かってくる。
一瞬にして、自分がどういう立場に置かれたか理解できた。
まだ時間はある・・・逃げるか、それはまずい。

まずD80の該当の画像は消去。
おそらくカメラバックを開けろと言われるから、F3では撮っていないけど疑われる可能性が高いしフィルム抜かれるの嫌なので中敷を出してF3を底に置いて、上からレンズを入れた中敷をかぶせて上から見えないようにした。
そうこうするうちにジープが到着。
迷彩服でマシンガンを肩にかけている。

怖いというのはなく頭の中は冷静だった。
若い二人、アラビア語で怒鳴っている。
私は首を横にふってわからないふりをした。
いや、ほんとにアラビア語わからないし。
もちろん、どういう嫌疑がかけられているかはわかっていた。
英語で聞き返したら案の定通じなかった。

かなりいらだっているようだが、外国人で言葉が通じないとわかったらしく一言「パスポート!」
私はパスポートを渡した。
その次「フォト!」というからD80のモニターを見せた。
彼らはデジタル一眼なんて始めて見るから画像を出したらビックリしていた。
その建物の写真は消していたが、隣の建物のカットはわざと残しておいた。
一コマづつ確認している。
私のパスポートとD80の画像を確認後、私の身体検査、カメラバッグを開けさせられ、レンズ全部出してチェック。

隠したF3はばれませんようにと祈った。
なんとか気づかれずに済んだ。
それにしてもGoogle Earthで全部丸わかりの時代なのに何だよ、というのはこちらの理屈。
無線で交信していた.
決着がついたのか、私に「ノー・フォト!」と言い捨てて帰っていった。
どうやら釈放のようだ。

今日JETT社に無理に行かないほうがよさそうだ。
このまま引き返そう。
その時、腋の下が汗でびっしょりなのに初めて気が付いた。

20年以上前、まだ東側だった頃のチェコで銃を向けられたり、中国で橋を撮って拘束されたことがあったが、この10年ぐらいは政情がシビアな国にも行ったが、そういう意識を持つことなく旅をしてきたので油断していた。

いくら政情が安定しているとはいえイスラエルやレバノン、イラクやイランに挟まれたエリアである。
このぐらいの警戒は当然である。気づかなかったとはいえ軍施設を撮ったのはまずかった。

カメラはトラブルの元であるということを認識させられた、ノーテンキな旅行者の頭に冷や水をぶっかける出来事だった。

夜、ダウンタウンに行き、ビールを飲めるところに入った。
スピークイージー(密造酒場)のような雰囲気である。
「ビッラ!」と注文すると
アムステルの500mlを持ってきた。
アムステルは日本ではあまり見ないブランドだがオランダのアムステルダムにあるブランドでヨーロッパではよく見かけるビールである。
「いくら」
「3.5JD(600円)」
「うっ、高っ!」
ボラれているのか、イスラム国家だから高いのか見当がつかない。







でも空気が乾燥しているのでビールがとても美味しい。
ちょっと生き返った。







宿に戻りシャワーを浴びベッドに寝転がった。
音だけでかくて冷えないエアコン、外を走る車の通行量も半端じゃなくウルサイ。
例のタクシーは停まっていない、どうやら動いたようだ。
トラブル続きの一日。

「おれ、ここまで何しに来たんだ。」と誰に言うともなくつぶやいて寝てしまった。


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