フェルメールを見に行く


美術史博物館。
今回のウィーン行きの最大の目的はここへ来ることであった。



両博物館の間にあるマリア・テレジア像







美術史博物館の向かいは同じ形の建物の自然史博物館がある

ウィーンには1987年と1990年に来ているが、美術史博物館に行ったのは1987年のみである。
当時は、所蔵美術品がどのようなものがあるのか良くわかっておらず、また、私の美術の知識も高校の教科書レベルであった。
そのため展示作品が多いこともあり、ざっと見て歩いただけであった。
当時はフェルメールの作品を所蔵していることなど意識になかった。
20数年経ち、この博物館の収蔵品が、日本の美術館に来たら1点でも長蛇の列になるものばかりであることを知った上での訪問である。
開館時間に合わせて到着し、入場券の買うのに20分程並び入場した。















入場料は14ユーロ




正面の階段を上がると天井画が、その一部はクリムトが描いている。















左の人物画がクリムト





絵画のフロアを右手から順に回っていく。
正面から右半分はイタリア、スペイン、フランス絵画で、左半分はオランダ、フラマン、ドイツ絵画となっている。
(ここは珍しいことに館内の撮影は自由である)



展示室は絵画だけで24室





一部屋に膨大な収蔵品が展示され、一つひとつ見ていると限がないので、右奥のベラスケスの展示室に向かう。
王女マルガリータの肖像が並んでいる。
幼少期から少女期まで改めて見ると宮廷画家として10年以上王女を描いている。
写真のようにカンバスに画像を焼き付けていくようである。













次は、ラファエロへ。
イタリアやバチカンでラファエロの作品を見ているが、ウィーンでも見ることができるとは。。
でも残念ながらお目当ての「草原の聖母」他美術館に貸し出し中であった。



本来であればこれを見ることができた













デューラー「ベネチアの若い婦人」













テニエルス「ブリュッセルにおけるレオポルド・ウィルヘルム大公のギャラリー」

次は吹き抜けをまたぎ左側の展示室へ。
アンチボルトの作品。
果物などを組み合わせて人の顔を表現している。
面白いけど、私の好みではない。













隣はブリューゲルの部屋である。
「バベルの塔」はここにあったのか、前回来たとき何を見ていたのだ。
しばし見入ってしまった。
他にも「農民の婚礼」「雪中の狩人」など、日本に来たときは長蛇の列で人に押されてみたものが、ゆっくり見ることができる。
私がこの作家を好きなのは、単なる風景画ではないからである。
人が絵の中に動きのある存在として描かれている、スナップ写真や報道写真である。
当時としては、肖像画、風景画や宗教画が主流であった中、人々の日常風景を描くことはとても珍しいことだったと思う。
模写をしている人がいる、ヨーロッパの美術館ではよく見る光景である。
日本では、まぜ見ることができない。
それだけ芸術が身近なのである。
































次はレンブラント。
この作家は「光と影の作家」と呼ばれている。
シンプルな肖像画に光と影で陰影を出し、写真のような絵画である。
ブリューゲルが報道写真とすれば、レンブラントはスタジオでのモノクロの肖像写真である。
前回来たとき、これらの作家もまったく記憶にない、いったい何を見ていたのだろう。

左側の展示室の一番奥の部屋にフェルメールの作品が展示されている。
現存するフェルメール38作品のうち、この博物館は1点、「絵画芸術」を所蔵している。
広い部屋に同時代のオランダの作家に作品が数点展示されており、絵画芸術の作品はコーナーに展示されスペースを広く取り、専用の椅子まで置かれている。
特別な扱いである。








私が行った時、20名ほどの日本の高校生の団体がきておりガイドが作品について説明をしていた。
ガイドは一生懸命説明しているが、高校生はスマホで写真を撮ったりしているがさほど関心があるようには見えない。
仕方がないことだが、ちょっともったいない気もする。
その最中に、日本人の年配の方の団体も来たので、私は一旦、部屋を出て20分ほど別の部屋の絵画を見たあと、フェルメールの部屋に戻った。
部屋には誰もいない、1人で独占して鑑賞することができる。
絵に近づいて見る、離れて見る、椅子に座って見る。
写真のような絵画(フェルメールはカメラの原型、カメラ・オブスキュラを使っていたと言われている)であり、光と影の描写、コダクロームのような落ち着いた色使い、私の好みである。
贅沢な時間である。

椅子に座りしばらく見ていると、ドイツ人が数人入って来た。
そのうちの1人で、私よりやや年配のドイツ人が私に話しかけてきた。
「英語がわかるか?」
「大丈夫だ。」
「私は、この作品はフェルメールの作品で一番優れていると思っている。まず女性のバランスと背景の光の当たり方がとても良く・・・」と解説を始めた。
的確で細かい、さすがドイツ人!と感心しながら聞いていた。
私は「じゃあ、『真珠の首飾りの少女』はどうですか?」と尋ねると、「あれも良い作品だが、フェルメールは室内を描いた作品のほうが優れていると思う」と明快な答えが返ってきた。
彼は私に話して満足したのか、話が終わるのを待っていた同行者と一緒に部屋を出て行った。
時計を見ると、この部屋に来てから30分程経っていた。
充分満足である。
このフロアだけで3時間以上いたのだが、好きな作家の作品をゆっくり見ていると、あっという間に時間が経ってしまった。
1階は彫刻などの立体造形のフロアである。
絵画で満足したので、流すように見て歩いた。立体造形が好きであれば関心を持つフロアだと思う。



















次はベルヴェデーレ宮の上宮へ。
ここは多くのグスタフ・クリムトとエゴン・シーレの作品を所蔵している。
クリムトの代表作『接吻』もここの所蔵である。
入場して館内を撮影していると係員から、館内撮影禁止と注意された。
先ほどの博物館が撮影OKだったので、ついここも撮影OKであると思い込んでいた。









オレンジの屋根の建物が下宮







記念撮影を頼まれ1枚、素敵なカップルなので私のカメラでも撮らせてもらった



















こちらが上宮

注意される前に何枚か撮った作品があるが、ルールに反するのでここではアップをしない。
エゴン・シーレは若くして夭折したが、その作品は天才と呼ばれるに相応しいものである。
実物を見るのは初めてである。
筋張った身体と射すような視線、その視線は彼の意志を感じさせる。



シーレ「緑の靴下をはいた女」(Webより)

そして、その奥にはクリムトの作品が展示されている、特に「接吻」の前には多くの人が集っている。
ガラスケースで保護されているため近くで見ることはできないが、19世紀末のウィーンにおける新しい潮流を作った作家である。
包み込むような愛の表現が、名作と呼ばれるに相応しいのではないか。



クリムト「接吻」(Webより)

あっという間の時間だった。



ウィーン建築巡り

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