王宮


フォーン川を渡ると旧市街である。
ここに阮(グエン)朝の王宮がある。
京都でいえば御所にあたる場所である。
1945年阮朝終焉後、ベトナムは独立を宣言しホー・チ・ミンが初代国家主席に就任、フランスに対する独立戦争(第一次インドシナ紛争)が始まる。







1954年のディエンビエンフーの戦いでフランスに勝つが、北緯17度線で国が分断されベトナム民主共和国(北ベトナム)とベトナム共和国(南ベトナム)と2つの国にが生まれたのである。
南ベトナムは、アメリカをバックにしたゴ・ディン・ジェムがベトナム共和国(南ベトナム)に大統領に就任した。そしてフランスに代わりアメリカが深く関わっていくことになる。
1964年8月のトンキン湾事件をきっかけにアメリカは本格的にベトナム戦争(第二次インドシナ紛争)に関わることになった。
1973年1月のパリ協定締結によりアメリカ軍が同国から全面撤退、1975年4月30日にサイゴン陥落によりベトナム戦争が終結したのである。
そして、ここフエでも大きな戦いがあったのである。









1968年1月30日から展開された北ベトナム人民軍(NVA)と南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)が展開した「テト攻勢」である。
テトとはベトナムの旧正月ことで、この期間は戦争をしないというのが両軍の慣例であった。
それを破ってサイゴンやフエ、ダナンで大規模な攻勢に出たのである。
この戦闘は激戦を極め、サイゴンでは一時はアメリカ大使館がNVAに占領されるという事態となった。
そして、ここフエでは王宮で激しい戦闘が繰り広げられたのである。











沢田教一写真集『SAWADA』(発行:クレセント出版部)より

カメラマン沢田教一は、2月1日よりフエでの戦闘を撮影した。
ここで撮影した戦闘や戦闘に巻き込まれた人々一連の写真は、彼の戦場カメラマンの仕事としての頂点であった。
そして戦闘の舞台となったのが王宮であった。
これらの写真は沢田教一の写真集のフエ攻防の写真である。
写真からだけでも戦闘の激しさを感じることができる。
戦場カメラマンに憧れていた私にとって、中学生の頃から「フエ」は強く印象に残っている町である。






































16時前、城壁をくぐり王宮へ。
王宮の入り口の手前には戦争博物館がある。
戦車や戦闘機などが並んでいる。
「おおっ!」と思い、行こうとしたが門が閉まっている。
休館日のようだ、仕方がない、また明日出直すか。













王宮の正面、戦勝記念日の横幕とホーチミンの肖像が掲げられている。



















80,000ドン(300円)を支払い場内へ。



















広大な敷地に王宮がある、建物は中国様式の影響を受けているが、高い建物がないこともあり京都御所とも雰囲気が似ている気がする。
テト攻勢で瓦礫の山と化した王宮もきれいに復元されている。
その中で、私は、ある場所を探していた。



















太和殿を抜け、奥に進み、そして左に曲がり、宮殿の端の崩れかけた塀にたどりついた。補修もされず雑草が生えたままで放置されている。
そこに目的の物を見つけた。
無数の銃弾の痕である。
私は壁に手を当て、指でなぞってみた。
写真や文章でしか知らなかった「テト攻勢」を感じることができる。
テト攻勢は一時的にNVA、ベトコンが勝利し、その後、南ベトナム軍、アメリカ軍の反撃により10日足らずでNVA、ベトコンは撤退したのである。







結果として「テト攻勢」はNVA、ベトコンにとって「負けた」戦いであった。しかし、アメリカ軍と南ベトナム軍はフエ、ミト、カントー爆撃などにより最終的には勝利したが、この一連の報道によりアメリカを始め世界で反戦運動が起こるきっかけとなったのである。
フエが占拠された10日間で「フエ大虐殺」があり、2,000人あまりの知識人が虐殺されたのである。これはベトコンが予め準備していたリストに基いて実行されたもので、この虐殺は、南ベトナムの人たちにベトコンの存在と恐怖を植えつけたのである。
そのような意味では、「テト攻勢」はベトナム戦争の方向性を変えた大きな戦闘だったと言える。
そんな歴史を記憶の底から引っ張り出し王宮を歩いていた。














修復されたエリア内に意図的に一箇所だけ昔のままで保存し、銃弾の痕が見えるようになっている。
しかし手前に溝があるので近づくことができない。
一通り見て満足し、正面の王宮門を上がった。



















































どれも綺麗に復元されている













当時の衣装を着て記念撮影












フォーン川を挟んで新市街を見渡すことができる。
もうすぐ17時、閉門の時間である













































この写真を撮った時、開高健の『夏の闇』の一節
「ベトナム人は戦闘の横で魚釣りをしている・・・」を思い出した。












やはりサッカーが一番人気






4月30日という日に来ることができて良かった。


戦勝記念日と宮廷料理

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